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神戸地方裁判所 平成12年(ヨ)9号 決定

債権者

全日本港湾労働組合関西地方神戸支部

右代表者支部執行委員長

喜多英征

右代理人弁護士

在間秀和

幸長裕美

上原康夫

債務者

本四海峡バス株式会社

右代表者代表取締役

川真田常男

右代理人弁護士

奥村孝

石丸鐵太郎

堺充廣

堀岩夫

森有美

主文

一  債権者が、別紙団体交渉事項目録記載の事項に関して、債務者に対して団体交渉を求める地位にあることを仮に定める。

二  申立費用は債務者の負担とする。

理由

第一申立ての趣旨

主文第一項同旨

第二事案の概要

一  本件は、債務者の従業員の中に組合員を擁する旨主張する労働組合である債権者が、右組合員の使用者である債務者に対し、申立ての趣旨記載の仮の地位を定める仮処分を求める事案である。

二  前提事実(特に疎明資料等を記載していない事実については、当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) 債権者は、港湾産業及びこれに関連する事業の労働者で組織する全日本港湾労働組合の神戸地区における支部で、独自に規約、代表者、会計を有する権利能力なき社団たる労働組合である。

(二) 債務者は、一般乗合旅客自動車運送事業等を業とする株式会社で、本四連絡橋(明石海峡大橋)開通による一般旅客定期航路事業者の事業縮小に伴う対策として、新事業の展開、船員等の離職者の雇用確保を目的とし、平成七年四月一四日設立された。

そして、債務者は、明石海峡大橋の開通に伴い、平成一〇年四月六日から、大阪・神戸―淡路―徳島間のバス路線を、西日本ジェイアールバス及びJR四国と共同運行している。

2  債務者の従業員・労働組合

(一) 債務者の営業開始時の従業員は八三名で、そのうち運転士、整備管理者は五八名であった。なお、このうち、五二名は、元船員等の本四連絡橋関係離職者である。

(二) 債務者の営業開始時においては、従業員の大半が元船員であったことから、運転士及び整理(ママ)管理者五八名全員が申立外全日本海員組合に所属していた。

そして、債務者と全日本海員組合との間で締結されていた労働協約において、債務者の運転士及び整備士は、すべて全日本海員組合の組合員でなければならず、債務者は、同組合に加入しない者、または組合員の資格を失った者を引き続き運転士及び整備士として雇用しない旨のユニオン・ショップ協定が定められていた。

(三) ところが、債務者の従業員の多くは、労働協約の改訂等をめぐる交渉における全日本海員組合の活動方針に不満を抱き、平成一一年七月三〇日付で、運転士、整備管理者五八名全員が全日本海員組合に脱会届けを郵送にて提出してこれから脱退するとともに、、(ママ)同日、債権者に加入届けを提出して債権者に加入した(〈証拠略〉、審尋の全趣旨)。

ただし、その後の全日本海員組合の復帰工作の結果、現在では、うち一四名が右脱会届けを撤回したが、残りの四四名は、債権者の傘下にとどまっている(〈証拠略〉、審尋の全趣旨)。

なお、後に争点1の中で摘示するとおり、債務者の従業員が全日本海員組合から脱退したという効力が発生しているか否かは、当事者間に争いがある。

3  申立外中田らの解雇

(一) 全日本海員組合は、平成一一年八月六日、債務者の従業員の中で中心的な役割を担っていた申立外中田良治、同日野隆文、同板谷節雄の三名(以下「申立外中田ら」という。)を除名処分とし、右同日、債務者に対して、ユニオン・ショップ協定に基づき申立外中田らを解雇するように要請した。

これを受け、債務者は、同月九日付で申立外中田らを解雇した。

(二) 申立外中田らは、神戸地方裁判所に対し、債務者に対して地位保全及び賃金仮払いの仮処分を求める申立てをした(同裁判所平成一一年(ヨ)第三〇三号)。

これを受けて、同裁判所は、平成一二年一月三一日、申立外中田らの申立てを認める仮処分決定をした。

なお、債務者は、右仮処分決定に対し保全異議の申立てをした(同裁判所平成一二年(モ)第七〇〇六号)(ママ)

4  団体交渉の申し入れ

債権者は、平成一一年一〇月ころから、債務者に対して団体交渉の開催を申し入れている。

しかし、債務者は、全日本海員組合からの通知がないことを理由に、債務者の従業員の中には債権者の組合員が存しないとし、右団体交渉の開催の申し入れを拒絶している。ただし、債権者と債務者との間では、事実上の事務折衝が持たれたことはある。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  被保全権利に関して、債権者が、債務者に対し、団体交渉を求める地位にあることの確認を求める利益があるか(争点1)。

なお、右の点の判断に当たっては、次の事項が検討の対象となる。

(一) 申立外中田らの関係で、債権者が、債務者の従業員の中に組合員を擁する労働組合であるといえるか。

(二) その他の従業員の関係で、債権者が、債務者の従業員の中に組合員を擁する労働組合であるといえるか。

(三) 一般に、労働組合が、使用者に対し、団体交渉を求める地位にあることの確認を求める利益があるか。

2  保全の必要性に関して、強制力を持たない本件仮処分のような申立てに、保全の必要性が認められるのか(争点2)。

なお、争点1の確認の利益と争点2の保全の必要性とは、関連を有するものの別の問題である。

四  被保全権利(争点1)に関する当事者の主張

1  債権者

(一) 債務者が申立外中田らを解雇したことは、権利の濫用として無効である。

そして、申立外中田らは債権者の組合員であるから、債権者は、債務者に対し、団体交渉を求めることができる地位にある。

(二) 全日本海員組合に脱会届けを提出し、これを後に撤回していない債務者の四四名の従業員のうち、申立外中田らを除く者は、現時点では全日本海員組合に所属しているのではなく、債権者に所属する組合員である。

したがって、債権者は、債務者に対し、団体交渉を求めることができる地位にある。

(三) 労働組合法七条の規定は、労働組合が使用者に対して団体交渉を求める法律上の地位を有し、使用者はこれに応ずべき法律上の地位にあるという、私法上の法律関係をも定めているというべきである。

したがって、本件のように、使用者が労働組合からの団体交渉の開催の申し入れを拒絶している場合には、労働組合は、使用者に対し団体交渉を求める地位にあることの確認を求める利益がある。

2  債務者

(一) 次に述べるとおり、債務者がした申立外中田らに対する解雇は有効である。

(1) 本州四国連絡橋の建設により、この地域の交通輸送に重要な役割を果たしている旅客船事業及びこれに従事している労働者の雇用関係に、大きな影響が及ぶことが予測された。そこで、事業の縮小等を余儀なくされる旅客船事業者の離職者対策を重要な目的として、本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法が制定された。

ところで、右法律の制定、制定後の運用等にあたっては、全日本海員組合の果たした役割はきわめて重要であった。また、全日本海員組合は、離職者の再雇用先の確保等の観点から、債務者の設立、債務者の旅客自動車運送事業免許の取得、労働者の技術取得等に向けて、関係機関に強く働きかけた経緯もあった。

さらに、平成一〇年四月五日の債務者の営業開始時点において、債務者は未だ経営基盤が安定しない状態であり、新規事業であることから売上の見通しも明瞭ではなかった。

これらの事情の下に、債務者としては、全日本海員組合との信頼関係を維持、構築して労使関係を安定させることにより、経営基盤の安定を図る必要があった。

債務者におけるユニオン・ショップ協定は、右のような特別の事情から平成一〇年六月二六日に債務者と全日本海員組合との間で締結されたものである。

なお、債務者の設立に際して共同出資した一般旅客定期航路事業者十数社は、いずれも全日本海員組合との間にユニオン・ショップ協定を締結していた。

(2) 全日本海員組合の組合員の中には、本州四国連絡橋開通によって離職していまだ再就職ができない者や、今後離職を余儀なくされる者が多数存在しており、今後の債務者の欠員の補充にも、全日本海員組合の協力は不可欠である。

他方、申立外中田らは、債務者に雇用される以前から既に全日本海員組合に加入しており、ユニオン・ショップ協定の意義、効用を理解した上で債務者との雇用関係を継続し、全日本海員組合の組合員として恩恵を受けていた者である。

そして、申立外中田らは、債務者への採用及びユニオン・ショップ協定の締結後わずか約一年で全日本海員組合から除名されており、かかる経過を見ても、申立外中田らの行動は、会社の存立すら揺るがしかねないもので、看過しえないものである。

(3) これらの事情により、債務者は申立外中田らを解雇したもので、右解雇には十分な合理性がある。

(二) 債務者の従業員の中には、債権者の組合員は存在しない。

すなわち、債務者の従業員は、すべて全日本海員組合の組合員で構成されているところ、債務者に対し、申立外中田らが同組合から除名された旨の通知はあったが、他に、全日本海員組合から脱退したり、除名されたりして、同組合の組合員でなくなった従業員がいるとの通知はない。なお、全日本海員組合の組合員でなくなった従業員がいれば、同組合から、ユニオン・ショップ協定に基づいた解雇の要求があるはずであるが、申立外中田ら以外には、解雇の要求があった従業員は存在しない。

(三) 労働組合法七条、二七条は、労働組合に労働委員会に対する救済の申立ての権限を授与し、使用者は、労働委員会による救済命令の反面として、団体交渉を不当に拒否してはならないという公法上の義務を負うことを定めるが、同法が、さらに進んで、労働組合と使用者との間の私法上の法律関係までを規定していると解することはできない。

そして、仮処分によって保全されるべき権利関係は私法上の権利関係であり、債権者の主張する権利は、これに該当しない。

五  保全の必要性(争点2)に関する当事者の主張

1  債権者

(一) 別紙団体交渉事項目録記載一の申立外中田らの解雇撤回、現職復帰の問題は、平成一一年八月に申立外中田らが解雇されて以来相当期間が経つのに、この間一度も団体交渉が開かれておらず、きわめて緊急の課題である。また、他の事項についても、日々の労働条件にかかわる緊急の問題である。

(二) 債務者は、債権者と一度も団体交渉を開催しておらず、このことによって組合否認をし、債権者の団結の弱体化を図っている。

(三) 強制方法が存するが否かという問題と保全の必要性があるか否かという問題は別のものである。

そして、強制方法が存在しない仮処分であっても、紛争について一応の公権的判断が示され、暫定的規範が確立される限りにおいては他の仮処分と異ならず、強制方法を伴わないことは問題とされるべきではない。

2  債務者

仮に債権者に何らかの被保全権利があったとしても、紛争のより直接的な解決方法は、債務者に対して団体交渉を応諾するよう求める方法であり、現行法上、これは地方労働委員会が救済命令を発することで実現されることとなっている。

そして、債権者は、すでに地方労働委員会に救済の申立てを行っており、あえて、迂遠な解決方法である団体交渉を求める地位確認の仮処分を認める必要性はない。

第三当裁判所の判断

一  争点1(被保全権利の存在)

1  申立外中田らの解雇の有効性

(一) ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、民法九〇条により無効である(最高裁昭和六〇年(オ)第三八六号平成元年一二月一四日第一小法廷判決・民集四三巻一二号二〇五一頁、最高裁昭和六二年(オ)第五一五号平成元年一二月二一日第一小法廷判決・裁判集民事一五八号六五九頁)。

すなわち、労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないものというべきである。

(二) そして、前提事実2(三)、3(一)で判示したとおり、債務者が申立外中田らを解雇したとする平成一一年八月九日の時点では、申立外中田らは、労働組合である債権者の組合員であったから、債務者による右解雇は、民法九〇条により、無効である。

(三) これに対し、債務者は、債務者と全日本海員組合との関係の特殊性等を指摘し、申立外中田らの解雇の合理性を裏付ける特段の事由がある旨主張する。

しかし、どの労働組合に加入するかを選択することは労働者の自由であること、債務者指摘の事実は、結局のところ、全日本海員組合の組織の拡大強化を図るものにすぎないことに照らすと、債務者指摘の事実によっても、右判断は左右されないというべきである。

(四) したがって、労働組合法七条二号により、債務者は、その従業員である申立外中田らを組合員に擁する労働組合である債権者と、正当な理由がなく団体交渉をすることを拒んではならない。

2  他の組合員の全日本海員組合からの脱退の効力

(一) 労働組合からの脱退は、労働組合という団体の構成員たる地位を終了させる法律行為であり、組合に対する一方的な意思表示によって、その効果が発生する。

したがって、組合規約になんらの定めがなくとも、組合員は自由に脱退の意思表示をすることができるし、さらに、例えば、組合からの脱退には組合の承諾を要するというような脱退の自由を実質的に制約するような定めが組合規約の中に存在した場合には、右定めは無効であるというべきである(前記最高裁平成元年一二月二一日判決参照)。

(二) そして、前提事実2記載の事実に照らすと、申立外中田らを含む四四名については、全日本海員組合から脱退し、債権者に加入したというべきである。

なお、債務者は、全日本海員組合からその旨の通知がないことを指摘するが、右通知の有無により右四四名の全日本海員組合からの脱退の効果が左右されないことは明らかである。

(三) したがって、労働組合法七条二号により、債務者は、その四四名の従業員を組合員に擁する労働組合である債権者と、正当な理由がなく団体交渉をすることを拒んではならない。

3  団体交渉義務確認請求権

(一) 憲法二八条、労働組合法六条等の諸規定に照らすと、労働組合法七条の規定は、団体交渉をめぐり、使用者には団体交渉に応ずるべき地位を、労働組合には団体交渉を求めることができる地位を定めたものであると解することができ、その限りでは、同条は、使用者と労働組合との間の一定の私法上の法律関係を定めたものということができる。

そして、使用者が労働組合の存在を否認したり、その団体交渉の当事者適格を否定したりする場合、自己の使用者性を否定する場合、当事者間で義務的団体交渉事項であるか否かが争われている場合には、団体交渉を求める地位の存否の確認を求める訴訟は、紛争解決のための有効適切な手段として、確認の利益を認めるのが相当である(最高裁昭和六二年(オ)第六五九号平成三年四月二三日第三小法廷判決・裁判集民事一六二号五四七頁参照)。

(二) 前提事実4記載のとおり、債務者は、債権者が債務者との団体交渉を行う当事者適格がないと考えていることは明らかである。

したがって、債権者は、債務者に対し、団体交渉を求めうる地位にあることの確認請求権を有する。

4  被保全権利についてのまとめ

よって、債権者の主張する被保全権利(債権者が債務者に対して団体交渉を求めうる地位にあることの確認請求権)は、疎明があるというべきである。

二  争点2(保全の必要性)

1  争点1(被保全権利)に対する判断で判示したとおり、本件は、債権者が債務者に対して団体交渉を求めうる地位にあることの確認請求権を被保全権利とするもので、債権者の求める申立ての趣旨は、確認判決に対応するものである。したがって、このような保全命令に関して仮処分の執行を観念する余地はない。

ところで、確定した確認判決は、当事者間の法律関係を規定すると同時に、既判力の効果として、同一訴訟物に関しては後訴の裁判所をも拘束する。したがって、確認の利益が認められる限り、執行を観念する余地のない確認判決であっても、紛争の有効適切な解決手段となることが制度上担保されているというべきであり、逆に、紛争の有効適切な解決手段となることができる場合に、確認の利益が認められることとなる。

これに対し、保全命令に既判力を認めることは困難であるから、債権者がある地位にあることを仮に定める仮処分が発令され、右仮処分命令が確定した場合でも、それが当然に紛争の有効適切な解決手段となることが制度上担保されているわけではなく、右仮処分命令の実効性は、当事者が右仮処分命令を事実上尊重するか否かに委ねられているといわざるをえない。

2  ところで、このような確認判決に対応するような仮処分について、その執行を観念する余地がないとの一事をもって、保全の必要性を認めることができないとするのは相当ではない。

すなわち、仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができるとされている(民事保全法二三条二項)。また、このような必要性が認められる場合には、裁判所は、仮処分命令の申立ての目的を達するため、必要な処分をすることができるとされている(同法二四条)。

そして、注文上、仮処分を発するための必要性、仮処分の内容としての必要性には、他に何らの制限が加えられているわけではないから、これらは、裁判所の合理的な裁量に基づく判断に委ねられているというべきである。

3  そこで、本件において、このような意味での保全の必要性があるか否かについて検討する。

(一) 争点1(被保全権利)に対する判断で判示したとおり、債権者の被保全権利に関する疎明は充分であって、債務者が、債権者との団体交渉を拒絶している点に、合理的な理由を見出すことはほとんど困難である。

そして、使用者と団体交渉をすることが、労働組合の存立基盤にかかわる基本的な事項であることに照らすと、債務者による債権者との団体交渉の拒絶により、債権者あるいはその四四名の構成員に、著しい損害が発生していることも明らかである。

(二) そこで、仮処分命令の申立ての目的を達するため、必要な処分を行うべきところ、確認判決に対応するような仮処分命令の実効性が、これを事実上尊重するか否かという当事者の意思に委ねられているとはいえ、本件ではなお、債権者の求めるような仮処分を認める必要性があると考えられる。

すなわち、審尋の全趣旨によると、債権者及び債務者は、いずれも労働関係の実務に充分な経験をもって通じていること、したがって、いずれも、労働組合法等の労働法規の精神を充分に理解する能力を有していること、また、いずれも、弁護士である代理人の助言を受けうる立場にあり、本決定の意図するところを過不足なく理解することができることが認められる。

したがって、民事保全における暫定的な判断であるとはいえ、当裁判所の公権的な判断により、当事者間にこれを尊重する気運が高まることを充分に期待することができるというべきである。

そして、団体交渉を求める地位にあるか否かは債権者と債務者との間の交渉のいわば入り口の部分にすぎないこと、労使間の紛争は、一次的には当事者の自主的な交渉努力によって解決されるべきであることに照らすと、このような仮処分をしたからといって、債権者に何らかの不利益が生じるとも解されない。

(三) 結局、これらの事情を総合的に考慮すると、債権者の著しい損害を前に裁判所が拱手傍観するのは相当ではなく、その限界をも充分に視野に入れた上でなお、主文記載の仮処分を発するのが必要であるというべきである。

なお、労働委員会による救済命令の制度が存在することは、右判断を左右しない。

また、本件においては、別紙団体交渉事項目録記載の各事項に関し、それが団体交渉の対象となるべき事項であるか否かについては争われていない。そして、その客観的な内容に照らすと、右各事項は、いずれも債権者と債務者との団体交渉の対象となるべき事項であるとするのか相当である。ただし、これは、右事項に関する債権者の主張・要求が正当であることを意味するわけではないことを、念のため明らかにしておく。

第四結論

よって、債権者の主張する被保全権利、保全の必要性のいずれも疎明されたということができるところ、事案に鑑み、債権者に担保を立てさせないで本件申立てを認容することとし、申立費用の負担につき、民事保全法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 永吉孝夫)

《団体交渉事項目録》

一 中田良治、日野隆文、板谷節雄三名の解雇撤回、原職復帰

二 拘束時間について

1 通常一三時間を超えないこと

2 一三時間を超える分については何らかの代償措置をとられること

3 非常緊急時を除いて、最大でも一六時間とすること

三 五五歳以上の賃金カット制度を廃止されること

四 年齢給の改善と経験加給を取り入れた賃金制度とされたい

五 退職金については、左の四条件を満たし、勤続三〇年で一六〇〇万円以上となるよう、早期に制度を確立されること

1 額は本給に完全スライドさせること

2 自己都合退職を理由に減額しないこと

3 会社都合退職は割増しをすること

4 保全措置を講じること

六 労働災害企業補償協定に調印されること

七 人身事故等重大事故を起こした場合の罰則について協議を

八 本行路、臨時便等の休憩時間の改善(特に徳島便)

九 年間休日一二〇日の実施

一〇 交通費支給規定の改正

一一 大磯の宿泊所の改善

一二 台風等運休時の待機等についての取扱いの明文化

一三 各営業所間の助勤の場合の旅費及び助勤手当の明文化

一四 泊の場合の食事代の支給

一五 洲本―大阪便の減便は会社の業績低下を招くものであり、当組合員に多大な影響を与えるため、すみやかに回復されること

一六 淡路インターバス停、ジャパンフローラ開催時の路線、徳島―京都便について積極的にすすめられること

一七 洲本営業所における組合事務所の貸与、及び各営業所に当組合用の掲示板の設置・貸与を

一八 分会員について、賃金より毎月六〇〇〇円を当組合組合費としてチェックオフしていただくこと

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